発注者・元請・下請。お金と指示の流れを求人票の一行から読む方法

発注者・元請・下請。お金と指示の流れを求人票の一行から読む方法 建設業界の地図

本記事にはプロモーションを含みます

建設業界の求人を見始めた人が、最初に詰まるのがここです。「元請」「一次下請」「発注者」——面接でも求人票でも当たり前に出てくるのに、誰も説明してくれない。この地図がないまま面接に行くと、同じ「施工管理」という言葉が、会社ごとに別の仕事を指していることに気づけません。この記事では、会社の種類の比較ではなく、お金と指示がどの向きに流れているか、その一点に絞ります。

お金と指示は、上から下へ同じ向きに流れます

建物や設備をつくるとき、登場するのは大きく三者です。

  • 発注者:建てたい人。市役所や県などの官公庁、マンションを売る不動産会社、工場を建てたいメーカー、店舗を出したい企業など
  • 元請:発注者と直接契約して、工事全体を請け負う会社
  • 下請:元請から工事の一部分を請け負う会社。元請から直接請けるのが一次下請、一次下請からさらに請けるのが二次下請

たとえば、不動産デベロッパーが分譲マンションを建てるとします。デベロッパーが発注者で、設計事務所がまとめた図面をもとに建設会社を選び、契約します。この建設会社が元請です。元請は工事全体の責任を負いますが、基礎から内装まで全部を自社の社員でやるわけではありません。鉄骨、電気、空調、水回り、内装といった部分ごとに、それを専門にする会社へ発注します。これが下請です。

なお、公共工事では建築と電気と機械設備を別々の会社に発注する分離発注の形も多く、その場合はこの図とは形が変わります。分離発注では、設備工事の会社が官公庁と直接契約するので、その契約についてはその会社が元請です。まずは民間の例で流れを押さえてください。

重要なのは、お金の流れと指示の流れが同じ向きだということです。発注者が元請に支払い、元請が下請に支払う。工程の指示も同じで、元請が全体の日程を組み、下請はその枠の中で自社の担当部分を進めます。誰から報酬をもらっているかが、そのまま現場での立場になります。

ここに「常用(じょうよう)」という言葉が絡むことがあります。工事の一部分を請け負うのではなく、人を出した日数分で精算する契約の形です。求人票の会社説明に「常用中心」とあれば、その会社は工事の一区画を丸ごと任される立場ではなく、人を送る側に寄っている、と読めます。

同じ建物でも、新築と修繕では発注者が入れ替わります。分譲マンションなら管理組合、それ以外のアセットならビル管理会社かオーナーです。その見分け方は大規模修繕は新築より楽か。発注者が管理組合かオーナーかで別物ですに書いています。

「元請=ラク、下請=きつい」は外からの思い込みです

業界の外から見ると、上にいるほど楽で、下にいるほど過酷だと思われがちです。実際は、きつさの種類が違うだけで、どちらにも重さがあります。

元請側の施工管理は、自分で物をつくるというより、全体を回す仕事です。面談で元請の会社にいた方から聞いた話では、一日のうち手を動かす時間より、翌週以降の段取りを決める打ち合わせと、発注者へ出す書類と写真の整理に時間が溶けていく、と。工事が遅れれば発注者に説明するのは元請です。近隣から苦情が来たときに窓口に立つのも元請です。現場に関わる会社が増えるほど、調整する相手も増えます。

下請側は、自社の担当範囲に集中できます。ただし全体の工程を決めるのは元請なので、上の都合で前の工程が遅れれば、しわ寄せは下に来ます。「来週から入れるはずだった場所に入れず、翌週に二週間分を詰め込むことになった」という話は、面談でよく聞きました。自分で調整できない要因で忙しさが決まる、という点が下請側のきつさです。

会社の形態ごとに一つの現場にいる期間がどう違うかは、ゼネコン・サブコン・ハウスメーカー・プラント、一つの現場にいる期間で違いを見るに書いています。

年収も、上にいるほど高いとは限りません。専門性の高い分野、たとえば設備や電気の工事会社では、元請のゼネコンと変わらない水準を出す会社もあります。都心部の施工管理の求人は、下限四百万円台から上限八百万円台まで幅が開くことが珍しくありません。ただしこれは募集の帯であって、行き着く先ではありません。所長を張る人や、専門性の高い分野で実績を積んだ人には、千三百万円という水準も実際にあります。帯のほうは、元請か下請かよりも、地域・分野・その人が任される範囲で決まっている、というのが求人票を大量に見てきた実感です。

求人票のどこを見れば、その会社がどの段にいるか分かるか

会社名を検索しても、元請なのか下請なのかはまず出てきません。私が求人票を読むときに最初に見るのは、事業内容欄と主要取引先欄の二か所です。

見分け方はこうです。

  1. 主要取引先に、大手の建設会社の名前が並んでいる → その会社は下請側です。建設会社から仕事をもらっている、という意味だからです
  2. 主要取引先に、官公庁・鉄道会社・不動産会社・メーカーの名前が並んでいる → 元請側です。建てたい人から直接請けています
  3. 主要取引先欄そのものが無い、または「公開しておりません」となっている → 会社のホームページの施工実績ページを見ます。工事名の横に「元請:◯◯建設」と書いてあれば、その工事ではその会社は下請です

もう一つ、求人票の言葉には注意が要るものがあります。「元請工事」「自社施工」といった表現です。「自社施工」は元請という意味ではありません。下請として請けた範囲を、他社に丸投げせず自社の職人でやっている、という意味で使われることが多い言葉です。ここを混同したまま入社して、「元請に行けると思っていた」と言い出す人を何度も見てきました。求人票は嘘を書いているわけではなく、業界の中で通じる言い方をそのまま載せているだけです。外から来た人には別の意味に読めてしまう、というだけのことです。

面接で「うちは元請中心です」と言われたら、次に聞く一言

会社説明で「当社は元請の仕事が中心です」と言われる場面は、かなりの確率で来ます。ここで頷いて終わる人と、もう一歩踏み込む人で、面接官の受け取りが変わります。

聞く言葉はこれです。

「その工事の発注者は、どういったお客様が多いですか」

契約の相手が誰かを聞いているので、答えははっきり返ってきます。「官公庁と、地元の事業会社が半々くらい」と具体名や種類が出てくれば、本当に元請の仕事があります。ここで「案件によりますね」「ゼネコンさんからの依頼が多いです」と返ってきたら、それは下請の仕事です。ゼネコンから依頼が来ている時点で、発注者はゼネコンであり、その会社は請けている側だからです。

この質問は、面接官を試すためのものではありません。実際、答えを聞いたうえで「では現場では、他社さんとの調整もご自身でされるんですか」と続けると、その会社の施工管理が日々何をしているのかが具体的に出てきます。採用する側から見ても、この流れを分かって聞いてくる人は「入ってから話が違うと言い出さない人」に見えます。工事部長クラスの面接官は、業界の言葉を知っているかより、契約の関係を理解しようとしているかを見ています。

なぜ未経験の面談では、下請側の求人ばかり並ぶのか

最後に、私がいた側の事情を書きます。

未経験でエージェントに登録すると、紹介される求人は下請側の専門工事会社や、正社員型派遣に偏ります。これは担当者の好みでも、会社の方針でもありません。構造上そうなります。

理由は三つあります。一つ目は、元請側の会社が未経験を採る枠をそもそも多く持っていないこと。新卒と有資格者の中途で埋まるからです。二つ目は、エージェントの報酬が成功報酬だということ。入社が決まったときに、その人の年収に連動した手数料が企業から支払われます。決まらなければ一円も入りません。担当者は月ごとの数字を持っているので、決まる確率の高い求人から先に並べます。三つ目は、社内の案件の回り方です。企業側の担当と求職者側の担当が分かれている会社では、企業担当がその会社と契約を持っていない限り、その求人は候補として画面に出てきません。世の中に存在しても、そのエージェントの中には存在しないのと同じです。

さらに言えば、求人票の「自社施工」を、書いてある通りの言葉でそのまま説明されることがあります。悪意ではなく、知らないからです。だから、元請か下請かは、担当者の説明ではなく主要取引先の欄で自分で確かめたほうが早い。これは、現役のエージェントが自社のサイトには書けない話だと思います。

企業側の理屈も付け加えておきます。人手が足りないのに未経験に高い額が出ない、というのは矛盾に見えますが、企業の中では矛盾していません。エージェント経由なら紹介手数料が入社前に出ていき、独り立ちまでの期間は給与を払いながら利益が出ず、教える先輩の時間も現場から引きます。力がついた頃に辞める確率まで織り込んで回収年数を逆算しているので、金額は慎重になります。人手不足は、採用のハードルが下がることとイコールではありません。

今日できること:求人票の一行を書き出す

やることを一つだけ挙げます。

気になっている会社の求人票を開いて、主要取引先の欄に書かれている社名を、そのまま紙かメモに書き出してください。そして、その社名が「建てたい人」なのか「建設会社」なのかを分けてみる。官公庁や不動産会社の名前が並んでいればその会社は元請側、建設会社の名前が並んでいれば下請側です。欄が無ければ、会社のホームページの施工実績ページで同じことをします。

これだけで、面接に行く前に、その会社が誰からお金をもらい、誰の指示で動いているかが分かります。一日の仕事の中身も、忙しさの原因も、そこから枝分かれしていきます。入るかどうかは、その地図を持ってから決めれば十分です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました