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入社して1か月、最初の給与明細を見て「求人票と違う」と連絡してくる人がいます。担当していた頃、この手のメールは毎年一定数届きました。そして中身を確かめると、会社が嘘をついていたケースは多くありません。多くは、支給欄に並んだ項目のうち、どれが毎月必ず入るもので、どれが条件が消えたら止まるものかを分けずに受け取っていた、という話です。この記事は、求人票の読み方ではなく、手元に届く給与明細の側から給与の組み立てを分解します。
最初の明細でつまずくのは控除ではなく「支給の内訳」
よくある後日談を、金額を仮に置いて書きます。東京の設備会社に未経験で入った人が、提示された想定年収は500万円台半ばでした。入社して最初の明細を見ると、支給合計が28万円ほど。12倍しても340万円にしかならない。賞与を足しても届かない。それで「話が違う」となります。
このとき明細に何が起きているか。
- 入社初月は日割り計算になっていることがある
- 現場に配属される前の研修期間中で、現場に出ている人につく手当がまだ入っていない
- 残業もほとんどないので、固定残業代の枠を超える分がゼロ
- 控除の側では、住民税が前年の収入をもとに決まるので、前職の収入によっては思ったより引かれていることがある
つまり、想定年収を作っていた部品のうち、半分近くがまだ乗っていない状態の明細を見ているわけです。これは3か月目、現場に配属されて以降の明細と比べれば分かります。ただ、最初の1枚を見た時点では、そこまで分からない。
ここで大事なのは「待てば増える」という慰めではなく、増える分が何という名前で、どういう条件でつくのかを自分で言えるかどうかです。名前が言えないうちは、次に現場が変わったときにまた同じ驚き方をします。
支給欄を「配属が変わっても消えないもの」と「消えるもの」に分ける
建設・設備の会社の明細は、項目数が多くなりがちです。理由は単純で、働く場所が毎回変わる仕事だからです。場所が変わるたびに条件が変わるので、その差分を手当という名前で足し引きしています。
配属が変わっても基本的に消えないもの。
- 基本給
- 役職手当(職長、主任、所長など役割についている間)
- 資格手当のうち毎月払われる型のもの
- 固定残業代(あらかじめ決めた時間分の残業代を毎月同額で払う仕組み。みなし残業とも呼ばれます)
固定残業代を求人票の段階で読む手順は求人票の年収の読み方 幅・みなし残業・賞与のどこまでが確定分かに、その時間が実際にどこへ使われるかは施工管理の一日は、17時からが後半戦です。日報と写真が残る理由に書いています。
条件が消えれば止まるもの。
- 現場手当・出向手当(現場に配属されている間だけつく)
- 出張手当、赴任手当、単身赴任手当(遠方の現場に行っている間だけ)
- 住宅補助(借り上げ社宅を出れば消える)
- 固定残業代の枠を超えた超過分(残業が少ない月はゼロ)
面談で聞いた話で印象に残っているのは、地方の現場を2年回って戻ってきた人の例です。近場の現場に変わった月、出張と単身赴任にかかる手当が一度に消えて、支給額が月に5万円以上下がりました。本人の評価は下がっていません。昇給もしています。それでも手取りは減る。転勤の話を「勤務地の話」としてだけ聞いていると、給与の話だったことに後から気づくわけです。
選考中に確かめるなら、聞き方はこうなります。「今回の募集で配属予定の現場では、どの手当がつく想定ですか。その現場が終わって内勤や近隣現場に変わった場合、つかなくなるのはどれですか」。二次面接の工事部長でも人事でも答えられる質問で、はぐらかされることはまずありません。答えが出てこないときは、その会社の中で手当の運用が固まっていないということなので、それ自体が情報です。
賞与と退職金は「支給総額」ではなく基本給から計算される
ここが、手当の多い設計でいちばん効いてくる部分です。
賞与を「基本給の◯か月分」と決めている会社は多く、その場合、毎月の支給総額がいくらであっても、賞与の元になるのは基本給だけです。同じく、退職金の算定も基本給をもとにする会社が少なくありません。
つまり、月の支給総額が同じ30万円でも、
- 基本給26万円+手当4万円の会社
- 基本給18万円+各種手当12万円の会社
では、賞与も退職金も変わります。年収で並べたときには同じに見えて、続けるほど差が開く。
ただし、残業代の単価は別です。単価の計算から外してよい手当は、家族手当や通勤手当など法律で決まったものに限られ、現場手当や資格手当、役職手当は含めて計算することになっています。手当の多い会社でも、残業単価は基本給だけでは決まりません。
なぜ会社は後者のような設計をするのか。悪意というより計算です。基本給は一度上げると下げられません。対して手当は、配属が変わった、規程を見直したという理由で調整できます。業績が落ちたときに動かせる部分を残しておきたい。加えて、賞与と退職金の算定基礎を抑えられる。誰の利益でそうなっているかといえば、会社側の利益です。
これは違法でも珍しくもなく、そういう設計だと分かったうえで選ぶなら何も問題はありません。問題になるのは、明細を見るまで気づかない場合だけです。内定通知書に基本給が書いてあるはずなので、そこの数字を見て、想定年収から引き算してください。残った分が、条件つきの部分です。
年次で増えるのは基本給ではなく、役割・資格・現場
「毎年いくら上がりますか」という質問をよく受けました。定期昇給の額は、正直に言えばどの会社でも大きくありません。数千円から1万円台の刻みで積み上がる会社が多い。基本給だけを追いかけると、10年勤めても景色はそれほど変わらないように見えます。
実際に年収が動くのは、別のところです。
- 資格を取ったとき。毎月の資格手当がつく型と、合格時に一時金を出す型があります。両方ある会社もあります。
- 役割が変わったとき。担当から主任、主任から所長へ上がると役職手当が変わります。
- 任される現場が変わったとき。規模の大きい現場、遠方の現場、特殊な用途の建物などで手当の水準が変わる会社があります。
資格手当については、選考中にはまず出てこない実務上の落とし穴があります。「在籍中に取得した者に限る」という規定がある会社があり、入社前に自力で取ってきた人には合格一時金が出ないことがあります。毎月の手当はつくのに一時金だけ出ない、という形もある。入社前に取っておいたほうが評価されると思って頑張った人が、あとで知って落ち込む場面を何度か見ました。求人票にも書いていないので、内定が出た段階で賃金規程の資格手当の条項を見せてもらうのがいちばん早いです。
そして、建設業界の外から持たれやすい思い込みをひとつ。「施工管理の年収は求人票の上限が天井」というものです。これは違います。求人票の帯は募集の範囲であって、到達点ではありません。所長として大きな現場を任される人や、専門性の高い分野で実績を積んだ人には、1,000万円を超える例が実際にあります。一方で、その水準に届く人が多数派かというとそうではない。帯の上限も天井も、どちらも実態からずれた読み方だということです。
もうひとつ、増える話とは逆の動きも書いておきます。近年、時間外労働の上限規制が建設業にも適用されるようになり、残業時間を減らす方向に会社が動いています。残業代がきちんと払われている会社ほど、残業が減ると年収が下がる。「働き方が改善されたのに手取りが減った」という相談は、実際に起きています。良い方向の変化が、そのまま収入の増加になるとは限りません。
基本給がほとんど動かないぶん、年収は段で上がります。どのタイミングで段が来るかは毎年少しずつ上がると思っていたのに上がらない。年収が動くのはどのタイミングかに書いています。
エージェントは、入社後の明細までは見ていない
ここは自社の集客記事には書きにくい部分なので、担当を離れた立場で書きます。
人材紹介の報酬は成功報酬で、入社が決まった時点で企業から紹介手数料が支払われます。そしてその手数料は、多くの場合「理論年収」や「想定年収」と呼ばれる額をもとに計算されます。これは、月の支給額に各種手当と残業見込みを足して12倍し、賞与見込みを加えた数字です。つまり、手当や残業を厚めに見積もった想定年収のほうが、手数料は大きくなる。 担当者には、高い想定年収で提示してもらったほうが都合がよい構造があります。
さらに、担当者は月ごとの数字を背負っていて、その数字は入社した月で締まります。入社3か月目の明細がどうだったかは、数字にも評価にも載りません。悪気なく追わなくなるのではなく、追う仕組みがないのです。加えて、担当者が賃金規程の中身まで踏み込んで確かめているとは限りません。
これは担当者個人を責める話ではなく、報酬の出どころがどこかという話です。使う側としては、内定条件の確認だけは自分の側の作業として持っておくのが妥当だと思います。担当者に確認を依頼するのは構いません。ただ、返ってきた答えが書面のどこに基づくのかまでは、自分で見てください。
まず何をするか
今日できることをひとつだけ。
在職中で転職を考えている人は、直近3か月分の給与明細を並べて、支給欄の項目を紙に2列で書き出してください。左に「配属や現場が変わっても消えないもの」、右に「条件が消えたら止まるもの」。どちらか分からない項目が出てきたら、それが自分の給与のうち理解できていない部分です。
内定が出ている人なら、内定通知書の基本給の数字を書き出し、提示された想定年収からその12倍を引いてください。残った金額が、手当と残業と賞与で構成されている部分です。その内訳を項目名で全部埋められるかどうか。埋まらない項目があれば、賃金規程の該当箇所を人事に確認する。入社前に聞いて嫌がられる質問ではありません。むしろ、入社後に聞くほうが気まずくなります。


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