提示年収の決まり方。面接の後の稟議で何が足され、どこで止まるか

提示年収は面接の後に決まります。稟議で何が足され、どこで止まるか 年収と待遇

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面接の手応えは悪くなかったのに、出てきた提示額が求人票の下寄りだった。この経験がある施工管理や設備の技術者に向けて書きます。あの数字は面接の場で決まっていません。面接が終わった後、あなたのいない会議室で足し算と引き算をされた結果です。何が足されて、どこで止まるのかを分解します。

提示額を決めているのは、面接官ではなく稟議の紙

二次面接で工事部長と話して、話が合った。現場の話で盛り上がって、部長が「うちに来てもらえたら助かる」と言った。その手応えは本物です。ただ、部長に決裁権があるとは限りません。

面接の後は、だいたいこういう流れです。部長が人事か総務に「あの人を採りたい、◯◯万円くらい出したい」と伝えます。人事が社内の給与テーブルに当てはめて、等級と号俸を仮置きします。そこに賞与見込みと法定福利費を足して、年間いくらの支出になるかを出します。会社の規模によっては、ここに社長か役員の決裁が入ります。

このとき部長が書く紙は、A4で一枚か二枚です。そこに書けるのは、面接の空気ではなく「この人が着任して何ヶ月で何を任せられるか」という見込みだけです。面接で盛り上がった話が、その紙に書ける形になっていないと、額には反映されません。逆に言えば、部長が紙に書き写せる材料を面接で渡した人は、そこで数字が動きます。

面談を担当していた頃、二次面接の直後に企業の採用担当から「あの方、いまの現場ではどういう立ち位置ですか。所長の下に何人いて、その中のどこですか」と電話が来ることがよくありました。部長が紙を書く段になって、材料が足りないことに気づくからです。

会社が足しているのは給与ではなく、回収年数

人事が見ているのは月給の額そのものではありません。この人を採るのにいくら出て、いつから回収が始まるか、です。

足されているものを並べます。

  • 紹介会社経由なら、入社時点で出ていく紹介手数料。理論年収に料率を掛けて計算されるので、提示額を上げるとこの金額も連動して上がります
  • 独り立ちするまでの給与。経験者採用でも、その会社のやり方・書式・協力会社の顔ぶれに慣れるまでの期間は見込まれています
  • 教える側の時間。所長や先輩が現場から引かれる分です。ここは金額に見えにくいのですが、部長は一番気にしています
  • 早期に辞める確率。これは個人を疑っているというより、過去の中途採用の実績から一定割合で織り込まれています

この合計を、その人が生む粗利で何年かけて回収するか。ここが会社の中で共有されている数字です。人手が足りないのにその額しか出ない、という話は、応募者から見れば矛盾ですが、会社の中では矛盾していません。足りないのは人手であって、回収年数を延ばしてよい理由ではないからです。

だから「即戦力」という言葉の意味も、社内では具体的です。回収の開始時期が早いこと、教える側の時間を引かないこと。この二つです。未経験で受ける場合は、この二つがどちらも逆に働きます。そのぶん回収年数がどう見積もられるかは 人手不足なのに未経験の提示額が低いのはなぜか。企業の帳簿から逆算する に書きました。

上限は求人票ではなく、社内で一番近い人の給与で止まる

ここが、求人票を読むだけでは見えない部分です。

たとえば東京の建築施工管理で、下限が400万円台、上限が800万円台という求人があったとします。上限の800万円台は嘘ではありません。ただしその数字は、社内の誰か一人の実額だったり、過去に採った人の水準だったり、将来所長として回ってもらう前提で置かれた枠だったりします。

求人票の段階でこの幅をどう読むかは、求人票の年収の読み方 幅・みなし残業・賞与のどこまでが確定分かに書いています。

実際の提示は、給与テーブルの「あなたに一番近い既存社員」で止まります。中途で入る人の額が、同じ工種を同じ規模で回している既存の主任より上になると、その主任の昇給を先にやらなければ説明がつかないからです。原資は有限なので、たいていは中途の提示額のほうが削られます。

面談でこう言われたことがあります。企業の人事の方から、「前職の額に20万円乗せた提示を出したいが、その額だと工事二課の主任二人を超えてしまうので、来期の昇給を待ってからにしたい」。つまり、あなたの評価が低いから下がったのではなく、社内の並びの問題で下がっている場合がある。これは応募者側からは見えません。

確かめ方は一つあります。二次面接で工事部長に「私が入ったら、どの現場の誰と同じ立ち位置になりますか」と聞くことです。名前が出なくても、「今だと第二工事部の中堅クラス」といった答えが返れば、そのクラスの水準が上限だと考えたほうが現実的です。求人票の上限を基準に交渉しても、そこには届きません。

額が動く材料と、どれだけ言っても動かない材料

動くのは、回収の開始時期を前に倒せる材料です。

  • 担当している物件の規模。ただし数千万円の改修と十億円の新築では、そもそも応募できる会社の層が違います。同じ層に出すなら、その中で規模が上のほうにいるかが効きます
  • 現場での立ち位置。大型の新築なら一現場に専任で所長の下の何番目か、住宅や改修なら同時に何件を回しているか。どちらも着任後の配員計画にそのまま使えます
  • 発注者の顔ぶれ。官公庁の実績、特定のゼネコンや設備会社との取引経験は、その会社が伸ばしたい領域と重なると強く効きます
  • 施工計画書や実行予算を自分で作っていたか、上がってきたものを見ていたか。この違いは、独り立ちまでの月数の見積もりを変えます

逆に、どれだけ丁寧に話しても額が動きにくいのは、人柄・熱意・残業をいとわない姿勢です。これは採用の可否には効きますが、稟議の数字には書けません。「協調性がある」と書かれた紙で役員の決裁は下りないからです。

もう一つ、知っておいたほうがいい副作用があります。交渉で額を上げた場合、その分は社内で「前倒しで払った分」として扱われます。等級を一つ上げて通した場合は特にそうで、着任後の期待役割もその等級のものになります。入社半年で「聞いていた話より任される範囲が広い」と感じる人の一部は、これが原因です。上げること自体は悪くありませんが、上げた額と引き換えに何を期待されているかは、内定面談で必ず言葉にして確認しておいたほうがいいです。

希望額をいつ、どの相手に伝えるかでも通り方が変わります。その順番は希望年収はいつ言うのが正解か。同じ数字でも、担当者によって企業への届き方が変わりますに書いています。

エージェント側の事情で、交渉が途中で止まることがある

ここは現役の会社が自社の記事には書きにくい部分です。

紹介手数料は成功報酬で、理論年収に料率を掛けて計算されます。世間で相場として語られるのは三割前後です。ただし建設に強い紹介会社を何社か引いてみると、平均手数料率が五割を超えているところが少なくありません。どこか一社が押し上げているのではなく、この分野ではその水準が通っているということです。年収六百万円の人が一人決まれば、企業から出ていくのは三百万円を超えます。

この仕組みだけを見ると、担当者はあなたの年収を上げたいはずですし、実際そういう動機は働きます。

そして、あなたを担当している会社が実際に何割取っているかは、調べれば分かります。二〇二五年四月から、紹介会社は職種ごとの平均手数料率を公表する義務を負っているからです。厚生労働省の人材サービス総合サイトに、取扱いの多い上位五職種について、求人者から徴収した手数料の総額を求職者の予定年収の総額で割った率が載ります。社名で検索すれば出てきます。

見ておく意味は二つあります。一つは、料率が高い会社を通すほど、企業側は一人あたりの回収年数を長く見積もる必要があるので、提示額に跳ね返る余地があること。もう一つは、同じページに六か月以内の離職者数も載っていることです。決まった数と辞めた数の比率は、その会社がどういう決め方をしているかの手がかりになります。

ただ、担当者が背負っているのは手数料の額だけではなく、月ごとの決定件数です。月末が近く、件数が足りていない担当者にとって、決まりかけた案件を条件交渉で揺らすのは怖い。だから「この額なら悪くないので、まず受けて中で上げていきましょう」という言い方になることがあります。これは嘘ではありませんが、誰の都合で出た言葉なのかは知っておいてください。

もう一つ、返金規定があります。多くの契約に、入社から一定期間内に退職した場合は手数料の一部または全部を返す条項が入っています。だから担当者は、入社直後にこまめに連絡してきます。フォローの気持ちは本物だとしても、返金期間を越えるまでは会社としても見ておきたい、という事情が同時にあります。逆に言えば、その期間を過ぎた頃から連絡が減るのは、担当者の人柄ではなく仕組みの話です。

応募者側としてできるのは、交渉を担当者に丸投げせず、何を根拠に何円上げてほしいのかを自分の言葉で渡すことです。「もう少し上げてほしい」だけでは、担当者は企業に伝えようがありません。先に挙げた請負金額・掛け持ち件数・発注者の実績を添えて、「この経験があるので、着任後◯ヶ月でこの範囲を持てます」という形にすると、担当者はそれをそのまま企業に転送できます。転送できる文章になっているかどうかで、交渉が動く確率は変わります。

まず、担当現場を三件、数字で書き出す

今日やるなら、これだけで十分です。直近に担当した現場を三件、次の項目で書き出してください。

  1. 発注者と、元請か下請か
  2. 工種と、請負金額のおおよその規模
  3. 工期と、そのうち自分がいた期間
  4. 自分の役割(担当か、サブか、所長代理か)
  5. その期間に同時に持っていた他の現場の数

紙一枚で終わります。これが、工事部長が稟議に書き写す材料です。職務経歴書に会社名と現場名だけを並べている人は多いのですが、この五項目が入っているかどうかで、面接後に書かれる紙の中身が変わります。提示額を動かす作業は、面接の場ではなく、この書き出しから始まっています。

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