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建築や設備で二十年やってきた方が、解体工事の求人を見て「未経験可で七百万、八百万」という帯に引っかかることがあります。人手不足だからか、きつい仕事だからか、と理由を探して結局よく分からないまま応募を保留する。その保留の理由に答えを出したい人向けの記事です。先に結論を書くと、その額の原資は工事の利益だけではありません。だから読み方も、確かめ方も変わります。
同じ「解体工事の施工管理」でも、三つの別の仕事です
解体は大きく三つに分かれます。プラント系の特殊解体、RC 解体、木造の解体です。扱う構造物が違うので、現場の進め方も働き方も別になります。
- 特殊解体:対象がプラントで、石油などを扱っていた施設が含まれます。何を流していた設備かによって残るものが変わるため、施工には細心の注意が要ります。
- RC 解体:都心だと昼夜を問わない施工になることがあります。作業時間は近隣と交通の事情で決まります。
- 木造:営業から施工管理まで一人で一貫して受け持つことが多く、施工管理だけを切り出した働き方にはなりにくい分野です。
面談で「解体に興味があります」と言われたとき、この三つのどれかと聞いても答えが返ってこないことがよくありました。応募者の不注意ではありません。求人票の職種欄はどれも「解体工事施工管理」で共通だからです。入社後に「見積と飛び込みの営業がついてきた、施工管理の募集だと思っていた」という連絡をもらったこともあります。会社は嘘をついていません。木造の解体では、それが施工管理の仕事の範囲だからです。
三分類の確認はここまでで十分です。本題は次からの、額の出どころの話です。
八百万円という帯は、工事の粗利だけで組まれていません
RC 解体や特殊解体を手掛ける会社は、スクラップ事業も持っていることが多いです。解体で出た鉄を資材として売る収益が、工事とは別に立っています。つまり社員に還元する原資が、工事の利益だけではないということです。
これを知らずに求人票を並べると、同じ地域の同じ規模の専門工事会社なのに、解体だけ帯の上限が高い理由が説明できません。産業廃棄物の知見があると他業種からでも入りやすいのも、この構造と繋がっています。会社にとっての価値が「工事を回す人」だけでなく「出てくるものの流れを分かっている人」にもあるからです。
ここから先が、転職の判断に効く部分です。
額の一部が資源相場に乗っているということは、自分の腕とは別の要因で上下するということです。 建値が良かった年の実績が求人票の年収例に載り、落ちた年には賞与が動く。入社二年目に「求人票と違う」と感じる人が出るのは、多くの場合この振れ幅を固定給の話だと受け取っていたからです。
もう一つ、これは面談でもあまり言われないことですが、この水準に一度乗ると、次の転職先が同じ構造の会社に限られます。 ヤードを持たない解体専業や、ゼネコンの解体部門、設備側に戻ろうとすると、同じ額を出す原資がそちらにありません。書類は通るのに提示の段階で折り合わない、という止まり方をします。四十代後半で解体に移る場合、その先の選択肢が狭まる方向の決断だという前提は持っておいたほうがいいです。
二次以降で、工事部長と社長に三つだけ聞く
解体会社はオーナー企業が多く、人事部がない規模も珍しくありません。一次で工事部長、二次で社長、それで決まる。逆に言えば、原資の話を答えられる人が最初から目の前に出てきます。この機会に聞くことを三つに絞ります。
- 「自社でヤードをお持ちですか。収集運搬と中間処理の許可は、どちらも自社の名前ですか」
- 「求人票の年収例は、何年の実績でしょうか。そのときの賞与は何か月分でしたか」
- 「鉄の建値が下がった年、賞与はどう動きましたか」
返答の読み方です。
- 自社ヤードと許可の両方があるという答えなら、高い帯の説明がつきます。工事が薄い時期にも別の収益が回っている会社です。
- 「そこは協力会社さんに出しています」なら、額は工事の利益から出ています。その場合、帯の上限は所長として現場を回している人の数字で、未経験で入る位置はもっと下です。求人票の上限を自分の一年目に重ねないことです。
- 三番目に「そこは気にしなくていい」と返ってきたら、変動を賞与で吸収している可能性があります。悪い会社という意味ではなく、固定給がいくらかを別に確認する必要がある、という意味です。
- 逆に、建値の話を数字で普通に話す工事部長がいる会社は、現場の利益と資源の利益を分けて管理しています。入社後に何で評価されるかが読める手がかりになります。
三番目は聞きにくい質問に見えますが、私が見てきた限り、この質問で機嫌を損ねる工事部長はほとんどいませんでした。むしろ「そこを聞くのか」という反応が出て、質問の順番が逆になります。四十代の中途に対して会社が本当に知りたいのは、金額に納得して入ってくるかどうかです。
二十年分のうち、何が通貨になって何が未経験扱いになるか
解体に移るとき、経歴の全部が評価されるわけではありません。移る前に紙に二列で書き出してください。
そのまま通る側:近隣への説明と苦情対応、道路使用や占用の協議、協力会社との折衝と手配、産業廃棄物のマニフェストと処分先の確認、工程を組んで人を並べる段取り。ここは建築でも設備でも同じ通貨として使えます。四十代の強みは、若手が一番苦労する近隣と役所のところを最初から持っていることです。
未経験として教わる側:構造物ごとの壊し方の判断、重機の能力と手配、アスベスト関連の段取り、混廃の分別と処分費の組み方。ここは年齢に関係なく下から教わることになります。
この区別を面接で自分から出せる人は、通ります。会社が警戒しているのは、二十年の経験を全部そのまま持ち込むつもりで来る中途です。
企業側の計算も書いておきます。未経験を一人採るとき、会社が負うのは給与だけではありません。エージェント経由なら紹介手数料が先に出ます。独り立ちするまでは給与を払いながら利益を生まない期間になり、教える側の時間も現場から引きます。さらに、力がついた頃に辞められる確率も織り込みます。この合計から回収年数を逆算するので、人手不足であることと未経験に高い額を出せないことは、企業の中では矛盾しません。解体で高い帯が出るのは、この計算の分母になる収益源が工事だけではないからです。
エージェント側の事情も、こちらの損得として知っておく
不都合なことから書きます。紹介手数料は企業が払い、それは未経験採用の回収計算に乗ります。 同じ会社の同じポジションで、直接応募のほうが提示が動きやすい場面は実際にあります。特に地場の RC 解体会社は、そもそも人材紹介をあまり使っていません。求人はハローワークと縁故と自社サイトに出ていて、エージェントの手元には解体の案件が数件しかない、ということが普通に起きます。「解体を見たい」と伝えて、なぜか設備の求人が並ぶのは、担当者が意地悪なのではなく、持ち球がないからです。
希望と違う求人が並ぶ仕組みそのものは、「他の職種も見たい」と言った面談で、なぜ同じ施工管理の求人が並ぶのかに書いています。
もう一つ。三分類の違いやヤードの有無まで押さえている担当者は、そう多くありません。責めても仕方がないので、こちらから「この会社はヤードを持っていますか」と聞いてください。分からなければ企業に確認してもらえます。その一往復で、担当者の手元の情報も増えます。
そして、経験と希望が離れすぎていると、企業に推す一文が作れません。「解体をやりたい」だけでは一文になりません。「設備で二十年、産廃の処分先の選定と近隣対応をやってきた。RC 解体で、中間処理を自社で持つ会社に行きたい」と言えれば、一文が作れます。同じ経歴でも、この差で出てくる求人の数が変わります。
今日やること、一つだけ
気になっている解体会社のサイトを開いて、事業内容と沿革のページから「金属リサイクル」「スクラップ」「中間処理」「収集運搬」という言葉があるかどうかを書き出してください。会社名を三社並べて、記載の有無を書くだけで十分です。
あれば、求人票の高い帯に原資の説明がつきます。なければ、その額は工事の利益から出ていて、上限は現場を回せる人の数字です。同じ八百万円という文字が、まったく違う意味に見えてきます。応募も面接も、その後で構いません。


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